『アレックスと私』「ココというゴリラ」『ある小さなスズメの記録』、そして『動物に魂はあるのか』

わたしは、コミュニケーションを「やりとり」と訳しています。

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これは、学習するオウムとの「やりとり」の記録です。

原題は『Alex & Me: How a Scientist and a Parrot Discovered a Hidden World of Animal Intelligence–and Formed a Deep Bond in the Process』。
直訳すると『アレックスと私:科学者とオウムが動物に秘められた知能の世界を明らかにし、
その過程で強い絆で結ばれた物語』です。

「アレックス」と名付けられたオウムは、色や形、
100以上の英単語などを覚え、人との「やりとり」に使うことができました。
(彼の最期の言葉は “You be good. I love you.”だったそうです。)

この本には、「手話ができるゴリラのココ」の話も出てきます。

彼女が覚えた手話(単語)は2000語を超え、嘘やジョークを言うことさえあったとか。
(こちらはココのサイトです。http://www.koko.org/

ココが研究者と「死」について会話した内容を記します。

研究者:ゴリラは死ぬとき、どう感じるの?
ココ:眠る。
研究者:ゴリラは死ぬと、どこに行くの?
ココ:苦痛のない 穴に さようなら。
研究者:ゴリラはいつ死ぬの?
ココ:年をとり 病気で。

「苦痛のない 穴に さようなら。」の原文は、“Comfortable hole bye.” だそうです。
「眠る」そして「苦痛のない 穴に さようなら。」、いいですね。

ゴリラだけでなくイルカや象など、他にも人間と「やりとり」できる哺乳類はいますね。
(下手な人間同士よりも通じ合っているのではないかと思うケースすらあります。)

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これは、「スズメ」と人間の間に起きた、奇跡的な「やりとり」に関する本です。
サブタイトルにあるように、「人を慰め、愛し、叱った、誇り高きスズメ」…。

しかも驚くことに、12年と7週と4日生きたスズメです。

第二次世界大戦中のロンドン郊外で、足と翼に障害を持つ、生まれたばかりのスズメが、
キップス夫人に拾われる場面からストーリーは始まります。

「クラレンス」と名付けられ、夫人の愛情に包まれて育ったスズメは、
すくすくと育ち、爆撃機の襲来に怯える人々の希望の灯火となっていくのです。

キップス夫人がこのスズメと共に生き、最期を看取るまでの12年間を綴ったこの本は、
イギリスで1953年に出版されたのを皮切りに、発刊後わずか1年半ほどの間に10版を重ねたそう。

さらには、他国でも続々と翻訳出版され、キップス夫人のもとには、
世界中から毎日多くの手紙が送られてきたというのです。

本には、このスズメの不思議なまでの芸や歌を含む、驚くべき能力が記されています。
もう、なんということなのでしょうか…。スズメですよ!

思い出すのは、こちらです。
サブタイトルには「生命を見つめる哲学」とあります。
帯には「哲学者たちの格闘と人間性への問い」です。

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動物に魂はあるのか、それとも…。
古代から人間は動物をどう捉えてきたのか、近代に至る動物論の系譜を辿り、
21世紀の倫理的な課題を照らし出すスリリングな思想史。

まぁ難解です。
しかし、それを経ないことには、終章の最後の1ページ半にはたどり着きようがないのです。

そして、その1ページ半にだけ、著者の言いたいことが平たく書かれています。
ひっくり返るくらいに平たく。

あとがきの終わりには、
「若者たちにとってのよりよい未来を心から祈念しつつ」とあります。

著者の祈りに、わたしも沿いたいと思います。

『弱くても勝てます~開成高校野球部のセオリー』:希望は知性から生まれる

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爆笑本。
ところどころイラッとして、かつ二度ほどグッと来る。
(何度読んでも、そうなのです。)

開成高校と言えば、まるで東大予備校のような合格率を誇る超進学校。
そこで野球をする人たちの、真面目なんだけど奇妙な感じ。

それを超える監督のおかしみ。
頭のいい人が、人とは違う形で頭脳を使うとこうなるのか、という見本です。

客観的に、正確に怒鳴る。その怒鳴り方が「芸」に近い。

『そのうちできるようになる』なんて思うな。今すぐできるようになれ!

(んな無茶な…。)

グラウンドを使えるのが週に1回、3時間程度。
あとは、自主的な朝練があるくらい。

そのような環境でありながら、
初代校長・高橋是清の「自分自身に固有の能力を進歩させる」
という教育理念の通り、各自が課題に取り組むのです。

その練習方法も独特で珍妙で…。
そもそも、練習を「実験と研究」と呼ぶのですよ。

監督によるポジション決めの基準も明快です。
・ピッチャー/投げ方が安定している。
・内野手/そこそこ投げ方が安定している。
・外野手/それ以外。

「どさくさにまぎれて勝つと」いう戦法も、
師いわく「ハイリスク・ハイリターンのギャンブル」。

目標を「甲子園」とするより、「強豪校を撃破する」としたほうが、との件は、
具体的に身体の動きを喚起するという意味で機能する素晴らしい目標設定です。

「希望は知性から生まれる」というのは真実だろうと思います。
「可能性」というものの正体に手を伸ばす感じです。

もはや「東大が六大学で優勝するより、開成が甲子園に出るほうが先になる可能性が高い」
とも言われているそうなので、 わたしも楽しみにしたいと思います。

「すべてが完璧でなくても、勝負には勝てる」。

アーティスティックスイミング(シンクロ)の井村雅代コーチの言葉も思い出します。

 

『午前4時、東京で会いますか?―パリ・東京往復書簡』


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パリ在住のシャン・サと東京在住のリシャール・コラスが、
2006年11月から2007年6月まで計6回にわたって、
フランス語でやりとりした手紙を翻訳し、まとめたもの。

シャン・サ(山颯):北京生まれ。8歳で初めて書いた詩が中国の新聞に掲載され、11歳で詩集を出版、12歳で全中国詩大会グランプリ受賞。天安門事件後の1990年、17歳で渡仏。画家バルテュスに2年間師事。フランスをはじめ、各国の文学賞を受賞。書や絵も高く評価され、パリやニューヨーク等で個展を開催。

 

リシャール・コラス:フランス生まれ。パリ大学東洋語学部卒。在日フランス大使館勤務、ジバンシィ日本法人社長を経て、1995年にシャネル日本法人社長に就任。小説も出版。夫人は日本人。

***

この美しい往復書簡は、音楽そのものです。
「異文化感受性=知性」ということがよくわかります。

東京午前4時、二人は確かに出会いました。
これが、最後の1行です。

読み終えるのが惜しいくらいの1冊です。